の人種のあこがれを科学の力で実現してみようとした。前後いくつもの世紀を経て、人類の科学的能力はとうとう、航空機製作というものを最も大規模な近代的産業部門の一つとするまでになった。ところで、すべての人類共通のものである空をとびたい思いは、どんな形でかなえられているだろうか。目ざましい航空能力は、果して全人類のよろこびのために、幸福のために万遍なくつかわれるところまで発達しているだろうか。
 航空能力は、人類生活のよろこびと、よりひろい眼界をもつことによって、より宇宙的人類に生長してゆくために、全人類に解放されなければならない。他のあらゆるよいもの、賢いもの、美しいもの、有用なものと同様に。石炭、石油、鋼鉄そのほかさまざまの地球のもちもの同様に。音楽、文学、映画などが、地球の各人民の生活からそれぞれの特長をもって発生しつつ、全人類の所有に帰すると同じように。
 したがって、現代説話のイカルスは、太陽熱にとかされる古風な膠などで自分の背中に翼をとりつけてはいない。イカルスは一人ではない。複数になった。地球上幾億の翔ぼうと欲している男女はイカルスとしてあらわれて来ているし、その翼は、膠で背中へ
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