」
あの人は、はっきりした口調でこんな事も云った。あの人の、口元、目の底、手の先、にほんとうにみちみちた力づよい、希望に光りかがやいて居るあの人を見つけた。爪の先、指、小耳、そんなところは前よりも娘らしい美くしさになって肩つきも丸くなって居た。今夜はどうせ明日は学校もないしするからって私達は卓子の上にいっぱい本を積んでお互に袴をはいて居る時の様な気持でかおをほてらして話し合った。十時頃、あの人は帰った方が好いと云うので私は、脚本を沢山と『女と赤い鳥』を貸しておじさんの家まで送って行った。六時から十時まで――私達にはあんまり短っかすぎた。それでも私はあきらめた様にしてだまってまっさおに光る路を歩いた。私の気持もうす青く光って涙ぐんで居た。
伯父さんの家の門の前で大阪に手紙を出す事、ひまがあったら送って行く事を約束して別れた。たった一人、うす明るい町を歩いて居る私はほんとうにみじめな涙のにじみ出るほど悲しい気持で居た。私の気はもうこの上なしと云うまで亢奮してしまった。思いがけなくあった嬉しさ、あの人が女優の弟子になったと云う事、又大阪に行って暮までは会えない。
そんな事が私の心臓の鼓
前へ
次へ
全46ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング