うす笑いをしながら私の目を見て居る。
「とうとう……でもいいでしょう、自分の望んで居た事なんだしいろんな事が都合よく行って居るんなら……私だってきらいな事じゃなし……」
 私は、こんな事を云った。
「外の人が聞いたらキット何とか云いましょうネ、でももう、何んて云われたってかまわないけれ共……貴方さえ気にしなけりゃあかまいやしない……」
「それで……今あっちの田町の家に居るの……」
「ええ、随分はでな暮し方です、我ままでネー――」
 あの人はまるで自分に関係のない家の事をはなす様な口調で云った。
 あの人の様子は一寸も変って居なかった。それでどこにも、そんな事をする人らしいういたいやみなところはなかった。私はそれをうれしく思いながらいろんな事を話し合った。芝居――脚本そう云うはなしになると今までとはまるで違った真面目さと熱心で私の云うのをきいて居た。あしたの朝十時位までには帰らなくっちゃあならない事、また二十□[#「□」に「(一字分空白)」の注記]日には大阪まで行くんだからいそがしい、なんかと、おちつかない、それでうれしそうなかおをして云って居た、「もう今私はそりゃあ真面目に勉強して居る
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