電燈もたずにおあるきやはるの?」
「うちんなかを」
「エエ、私なんかどけいこにもぼんぼりもって行きまっせ」
「マア、随分、御つぼちゃんだ事」
 私はこんな事を云いながら大きな笑で笑った。御仙さんもかるくはにかんだように笑いながら私の手にしっかりつかまってすかすようにしてあるいて居る。
「おせわさまどした」
 おまきさんは煙草をつめながら障子をあけた私達のかおを見て云った。
 それから四人丸く坐って祇園のまつりのはなしや、加茂の夕涼やまだ見た事のない京都の様子を御まきさんにはなしてもらった。
 その間御せんさんはおっかさんの体にもたれかかってその眉のあたりを見ながらはなしをきいて居る。
 御はんの時も御せんさんは御つぼ口をしてたべた。
 御まきさんはもうどんな時にも御仙さんが可愛くて可愛くてたまらないと云うように見えるし又御仙さんも御母さんがよくってよくってたまらないと云うようなかおつきや口つきをして居た。
 御はんがすんでから、わきを向いて御仙さんはふところから懐中かがみを出して一寸紅を唇にさしなおして小さいはけで口のまわりをはたいたりして居た。
 私は世間の事も知らずほんとうにややさ
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