云った。
「京都ではふだんでも日傘をさしてますか。あの紙でつくった」
「さしまっせ。私なんか御師匠はんとけいくにいつでもさしてますワ、模様をたんとかいてナ」
「貴女何ならってらっしゃるの」
「鼓と琴と茶の湯と花と」
「マア、そんなにならって一日の内にみんななさるの」
私は自分にくらべて随分いろんな事をするもんだと思ったんでこんな事をきいた。
「そうやなも、気の向かんときは行かんけど……」
「皆すきなものばっかりなの」
「すききらい云うて云わねんと母さんが云いやはるさかえ」
御仙さんと私はこんな事を云って居た。段々夕方の暗さが深くなって来て部屋に電気がついた時、
「家にかえりとうなってしもうた」
やんちゃのようなはな声で御仙さんはこんな事を云って私の方に身をすりよせて来た。
「何《ど》うして?」
「何んやらこわらしゅうて」
子供のようなことを云う人だと思いながら私は手をそっと御もちゃにしながら、
「そいじゃ、あっちに行きましょう皆の居るところへネ」
私は仙さんの手をひいてうすくらい廊下をつたわって茶の間に行った。御せんさんはそこをあるくんでもすりあしをしてあるいた。
「あんた夜
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