ききかえした。
「エ、母さんがやかましゅう云うてさげておきゃはるの、かおりをつめてなも」
御仙さんはこれだけ云ってまただまってしまった。二人は机の前にならんで坐って私の御秘蔵の本の差画や錦絵を見せた。ほそい細工もののような指さきでそれを一枚一枚まくって居る御仙さんはまるで人形のようなこのまんま年を取らせずに世間を知らせずにかざっておきたいほど美くしく見えて居た。私はそのうしろにならんだ、古い物語りやくさ草紙と一緒に毎日見て居たいほどに思われた。そしてかえってあんまりきのきかないものを沢山知らないで安心して居ると云う事がうれしかった。
私はなるたけわかりそうなはなしをえらんで自分からさきに口をきいた。口を一こときくごとに御仙さんは私になじんで来た。私は自分が年下のくせに十六の人を妹のように思ったりもてなしたりして居るのがふき出したいほどおかしかった。
私は東京のさわがしいことから人の様子から言葉つきから御丁寧にその人達のだれにでも有りがちなくせまではなした。
「せわしそうなところやなあ、京都はほんまにしずかどっせ、ほんまに」
もう東京のせわしさにつかれたように小さい声でこんな事を
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