さい声で母に相談した。
「何でもしておあそびよ」
 すてるように斯う云って二人は又若かった時のはなしをして居る。なめらかな京言葉とパキパキの江戸弁が快くもつれてひびいて来る。御仙さんは御母さんのうしろで振の色をそろえたりはなしたりして居る。
「いらっしゃいな何かして遊びましょう。何にももってないけれど」
 御仙さんは合点したまんまでウジウジして居るんでおっかさんが、
「いってな、あそんで来なはれ。そないにはれがましゅう思わんでもいいわな」
 背中を押すようにして云ったんで、
「いらっしゃいよ、ネ、私知らない事はおしえてちょうだい、そいであそびましょうよ。そんなにすましていらっしゃるもんじゃあないわ」
 私も笑いながらこんなことを云って手をひっぱってようやっと自分の部屋までつれて来た。本ばこで四方をとりまかれて古っくさい本のわきに目のさめるようなのがならんで居たり、文庫ん中から原稿紙がのぞいたりして居る部屋の様子を御仙さんは気をのまれたように立って見て居る。
 そして、小さい声で、
「何故薬玉さげて御おきゃはらないの」
ってきいたんで、
「あなたさげていらっしゃるの?」
 私はあべこべに
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