、もう忘れてしまったんだろうけれど、この方が御まきさん、あなたは――御仙さんて御っしゃいましたっけか?」
 娘さんにきくと合点をしたんで、
「ほんとうにうちのは御てんで困るんですよ、何も出来ないくせに理くつばかりこねて」
 私のあんまりうれしくない前おきをされてからあわてて御じぎをした、もうこれで五度か六度した。
 私はしたしい人のうちに来て口もきかず合点をしたりイヤイヤをしたりばかりして居るお仙さんをあやつり人形を見るような生きたのでないような気持で見て居た。それで一寸もうれしいとかなつかしいとか云う気はおこらずにめずらしい大きな人形を見る通りにただその大きく結った髪や千鳥の帯や長い袖を見て居た。
「何ぞあそばしちゃってちょうだい、あねさまごとも千世がみをきるのも大すきやさかえ」
 御まきさんは母のはなしの間にこんなことを云った。
「エエ」そう云ってあとはつっかえてしまった。
 私はもう五六年さきにあねさまごとも千世がみきりもしてしまって今はその御なごりもなくなってしまった。
「母様、どうしてあそびましょうネー千代がみもままごとの道具も御ひなさまのよりほかもってないんですもの」
 小
前へ 次へ
全46ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング