ろから一寸も会う時がなかった。
三月頃に一寸電話をかけてよこして「この頃、私大事業を起したんだから」なんて云って居たっきり、別に私も気にかけなかったし、自分の用事がたまって居たんで苦しい事をして会おうとは思って居なかった。
それから、時々、美術学校へ行く伯父さんに会ったりして、ただたっしゃで居ると云う事だけは知って居た。
こないだ、雨の降る日に茶色のたまらなく私のすきな壺を借りて来ようと思って行った時に「今どこに居らっしゃるんでしょう」ってきいたら、
「神戸に行ってるんです。貴方にだまって行くって気にしてましたっけが急で用事ばっかり沢山あったんで自分でも思う様に出あるけなかったもんですから……」
こんな返事をした。
帰ってからも丈夫でさえ居るんならどこに居たってかまわないとは思うけれ共何となく不安心なあの人の身の上に変った事が起ったんじゃああるまいかと思われた、思い出すとやたらに気になって翌日も翌日も幾日頃帰りますって伯父さんのところへききに行った。そのたんび私ははっきりしない返事に業をにやしては帰って来た。私の心の中には彼の人の事がいっぱいになってしまった。いつもの癖だとは
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