が知って居るばかりでなく囲りの人も知っている。
 一年にたった三度しか会わなかったり、一月中毎日毎日行ききして居たり、気まぐれなはたから見ると、かっちまりのないつきあいをして居ながら一度もいやなかおもした事なく、腹を立てた事なく、おだやかに五年の年月は二人の頭の上を走りすぎて行った。
「そんなに長い間会いもしないで…… 忘れてるんだろう」
 こんな事を私の母はお互に顔も合わせなければ手紙も出さないで居るのを見て云った。
「私は彼の人をよく知ってますもの……一年や二年顔を見ないったって忘れちまう様な――すれちがった気持になる様な人ならもうとっくにさようならをしてます」
 不安心もなく何と云われても斯う云い切る事の出来るほど私は彼の人を信じて居るし又彼の人も私と同じ位――又より以上に信じて居て呉れると云う事を私は知って居た。
 伯父さんは絵書きで――自分でも絵や、本や、文学のすきなあの人は、口ぐせの様に、「私がするんなら、役者か、絵かきか文学者になるんだ」と云って居た。私はどれに御なんなさいとも云わなかったし、又おきめなさいとも云わなかった。
 そして、私の方はいつもの気まぐれで去年の暮ご
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