もの、それを水につけてはともからみよしまで丁寧に自分の可愛がっててやる馬に水をあびせる時のように、かるい心地のいい音を立てて水のしぶきをかがやかせながら洗い始めた。黄金の川面からブラッシについて落ちるしたたりは黄金のしずくのようで舟も又それと同じにかがやいて居る。黄金の舟に、黄金の水、はだかんぼうな赤鬼はその上を走り廻って居る。……まるで草紙の中の插絵のような有様を、海の色も空の様子も忘れはてて見入った。赤鬼はしばらくしてから船に腰をかけて煙草をのみながら歌をうたい出した。
「御ひょろたかアしまア、まこものーなアかでエ
 あやーめさくとはー しおらしーい」
 歌も古いし人も古いけれども、その歌だけは新しい力のある、いきな声である。川の面をすべって線路を越えて海のあっちの方ーへとんで行ってしまった。
 その声にひきつられて自分の心もあっちの方へ行ってしまったが声の消えたと一緒になげかえされたようにはっきりした私は今更らしく、その美しい声を出した口のあんまりしわくちゃでつっぱいものをたべた時みたいにキューッとして居るのをびっくりした気持で見た。
 御じいさんに見とれて居る内にすっかり日が落
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