それで居て勢よく二十本ばかりはスックとそろって出た。
 いつだったか掃除の時に抜こうとしたのだけれども一寸ほんとに一寸出て居る葉が青びろうどのようにフックリと厚く可愛気の有る葉だったもんでそのまんまのこして置いたのが花をもった草なのである。その花は白粉の花に似て女らしいしおらしい花である。色は白紅淡紅でさし渡しは五分位、白い花のまん中に一寸と茶色の紋があるのなんかはものずきな御嬢さんが見つけたらキッとつまないではおかないほど人なつっこい花である。
「どうして生えたんだろう。誰がまいたとも分らないのに……」
「一人手にたねがとんで来たんでしょうキット……」
「そんな筈は有るもんですか。とんで来たんならあんなにチャンとならんで生えてなんて居るもんですか貴方」
 こんな事を云い合って分らないに知れきったことで頭をなやまして居る内に花はみんな咲ききって七日ばかり立った。
 誰云うとなく、その内に、あの花の蕊には昼でも夜でもキット一匹小さい茶色の羽虫が棲んで居る、どの花にでも……
と云うものが出来た。大事件のもち上ったようにさわぎ立てた。
 年とった人なんかは、
「まかないものが生えるなんて、そ
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