れでさえ一寸妙だのに……
 それに違いないきっと魔がさしたんだ」
なんかと云ってその日は常よりも読経の時を長くし御線香も倍ほどあげたりして居た。
 夜から私達は庭に出る度にキットこの花の中をのぞいてばかり居た。その中に小さい子供が風流熱にかかったりしたんでだれもかれも申し合わせたように花の事なんかは忘れて居た。ひょっと何と云う事なしにきづいて今日花を見るとその小さい可愛い花はみんなしぼんでしまって居た。
「オヤもうしぼんでしまった……そうそうあの虫はどうしたろうかしらん」
 こんな事を云ってはじから御丁寧にようじのさきでしぼんだ花の中を一つ一つのぞいて見たけれども一つでおしまいになると云うまで虫は入って居なかった。
「とうとう居ないのかもしれない」
 こんな事を思いながら御土産のつづらをあけるようにそっとようじのさきでひらいて見ると思いがけなく茶色の小虫はころっとなって入って居た。
 私はみ入られたようにいつまでもこれを見て居た。
 イキなり、ほんとにいきなり小虫はからだに似合わない強い力のこもった羽音をたてて人を馬鹿にしたように青空にとんでってしまった。
 私は生きながら花にとらわれ
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