えてるんじゃあないかと思われて来た。そこを又居たたまれないように歩き出した。おもちゃも何を買っていいかわからなくなってしまった。本も店先からのぞいた所では自分にわかりそうなものがない。
「己はいったい何を買うんだろう」
 新吉は泣き出しそうな声でそうつぶやいた。落っことしそうでたまらなくなったんでふところを両手でかかえた。どうにも斯うにもしようのないようになってかけ出した新吉は人につきあたるのもかまわずひた走りに走って家にかけあがった。真赤なかおをしてハアハア云って居る様子を見て、
「マアどうしたんだい、またけんかをしてまけたんかい」いくじなしだネーって云うように母親は云った。新吉は首をふって、
「違わア何かっていいんかわからなくってにげて来たんだい」
 けんか口調で母親をどなりつけて大声あげてなき出してしまった。
 母親が笑うたんびに「何かっていいんかわからなかったんだ」とどなりながらふところをおさえていつまでもいつまでもないて居た。

     名無草と茶色の羽虫

 いつまいたとも知れない種が芽を出した。そして花を持った。
 草っぱらのすみっこにおしつけられたようになって……
 
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