たらむしょうにかんしゃくを起したあとの淋しさがたまらないほど迫って来る。口の中で、
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トウレの君のかたり草
誠かはらで身を終へし
愛人がいまはにのこしたる
黄金のさかづきまもりつゝ
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こんな事をうたって居た。おだやかな気持にかえってあの帝劇で見た時のグレートヘンの着物、声、口元そんな事を思い出して居た。そうすると又小っぽけな小供達がけんかをはじめた。あの泣き声、叱る声、わめく声、又それをきくとかんしゃくの虫がうごめき出すと一緒に痛みが歯の間に生れる。こんな一寸した下らない事で又私の頭はごっちゃごっちゃにかきまわされてしまった。居ても立っても居られない。
私は柱にドスンドスンと体をぶっつけながら涙をこぼして居る。
「又一日ねころんで居なくっちゃあなるまい、子供なんて……、どうしたってすきになれるものか……」と天井をにらんで云った。いたいのも、涙の出るのも分らないで、只クシャクシャばかり感じるほど私の心の中にはひどい低気圧がおそって居るのだ。
猿芝居
舞台の下からつまだてて
そっとのぞいた猿芝居
釣枝山台 緋毛せん
灯かげはチ
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