ながら同じ事を考えながらあの道をスベッて行きたい、心の底に小さい又すてがたい詩の湧いて居る気持で――
唐人まげに濃化粧の町娘にも会うだろうし、すっきりしたなりの女にも会うだろうし――
銀座の夜の町に私が行ったらキッと誰かが私を知って居て待って呉れるんじゃああるまいか――
夜の時、銀座、私は斯う云って豊国の絵の女の頬のまるみを思う。
静けさとうれしさ
夢よりも淡い静けさ、――小雨は音もなく降って居る。黒土は娘の肌の様に。枝もたわわに熟れた梨の実はあの甘い汁の皮の外にしみ出したように輝いて居る。萩はしおらしくうなだれてビワのうす緑の若芽のビロードの様な上に一つ、二つ、真珠の飾りをつけた様に露をためて――マア、私は斯う、小さい、ふるえたため息をもらさなくては居られないほど嬉しさにみちて居る。泣きぬれた瞳の様な、斯う思って私は椿の葉を見て居る。頬ずりをして見たい様な、斯う思っていかにも柔かそうな青い苔を見る。木の葉の茂み、その肌からうれしさがしみ出して私の心の中に通うような苦しいほどの嬉しさに私の目には涙がにじみ出して来る。私の心はどうにも斯うにもしようのないほど波立って
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