だるまや百貨店
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)泡《あぶく》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おはぐろ[#「おはぐろ」に傍点]をつけている。
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一
炉ばたのゴザのこっち側で、たけをが箱膳を膝の前に据え、古漬けの香のもので麦七分の飯をかっこんでいる。
あっち側のゴザの上にはまま母のトラが、帯なし袷せを前垂れで締めた小柄な姿を外の明るい方へねじむけて、口じゅうじじむさい泡《あぶく》だらけにしながらおはぐろ[#「おはぐろ」に傍点]をつけている。年は三十そこそこだのに銀杏がえしに結び、昔風におはぐろ[#「おはぐろ」に傍点]をつけるのであった。
たけをは炉の自在にかかっている鍋からゆっくり三膳目をよそいながら、裸石じきの流し場へ裸足《はだし》で立って、しきりに唾をはいているまま母にきいた。
「みんなるすの?」
「おいさ。おじいさまはおじゅっさん(お住持さんという意味)へおいきなし、新は須田へいて貰うた」
「ふーん」
トラは自分より学問もあり、稼ぎもしている年かさのまま娘には何かにつけて遠慮し
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