が、そうして内職におろせば出来上った反当りで手間を支払い、しかもそれを機の貸し賃で小ぎった。村で現金はそんな手間働きでもしなければ見られない。たけをのうちでも、トラはそれでどうやらバラ銭を握るのであった。現金と云ったらそれとたけをがうちへ入れている十五円足らずが一家の収入の全部だ。
たけをは、
「どっこいしょ」
と立って四月の昼間でも暗い納戸へゆき、勤めに着てでる新銘仙の着物を丁寧にたたみつけた。それから洗濯ものをもって流し場へ下りたが、背中の貝がら骨の横が錐をもみこまれるように痛く、肩が張ってやりきれない。たけをは、炉ばたの柴置きから割木を一本とって、それで自分の肩をポンポンはたいた。
「しんどいか?」
「どうしたんやろ……肺病になるかもしれん」
「これ! けったいなこと云わんものじゃわ」
たけをがつとめている町のだるまや百貨店は男の店員百人に対して女店員を二百人つかい、朝の八時から夜は十時まで、一日十四時間という労働であった。朝八時と云ってもそれはもう客の入る時間で、それまでに店員への訓話があり、たけをのような通勤は六時から起き出してやっとだった。家へ帰りついて一服して床につく
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