出来たそうですが、皆さんは結構じゃわ。こうしていて商売の道は覚えてゆくし、社交はお手のものじゃし、――当県ではだるまやの寄宿舎にいた娘はんじゃったら理想的な花嫁さまじゃと云わせんならんわ。――ねえ」
 幾子はもと、どこかの村で裁縫の代用教員をしていたことがあるという話であった。
 寄宿舎の室の内では、襦袢の襟をかけかえている者、声を忍ばせて笑いながら、腕相撲をとっている組。そのわきで、とよ子とサワが、
「あんたおいきよ」
「いやア」
「何故?」
「――知らん!」
 さっきから押し問答をしていた。
「ね、こんど私がきっとゆくから、おがむ、かりて来て」
 サワが渋々たって襟もとを直しはじめた。
 だるまやの寄宿舎では、女店員たちの室へ新聞さえ置かせなかった。
「ここにおいてあるから、いつでも読んで下さい」
 新聞はキチンと重ねて、幾子の座っている茶の間、女店員たちの室とは狭い廊下一つ隔てた茶の間の茶箪笥の横においてあった。畳に手をついて物を云ってまで、借りにゆくのが面倒なので、つい女店員たちは何日も何日も新聞さえ忘れて働きに追われ暮すことになるのであった。
 とよ子は、九條武子の石版ずりの
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