リで生活して、日本へかえるとすぐ頭を丸刈りにされて侵略戦争にうちこまれた人の心と体の経験には、どんな深い裂けめが開かれたことだろう。その裂けめから彼の人間性に反射するのは何の思いであろうか。それに似た思いの若い女性のあることも現実である。
わたしたちが普通国際的と云っている言葉の奥に、どんな特殊な日本らしい[#「日本らしい」に傍点]感情のかげが沈んでいるかということも考えてみていいことだと思う。日本で国際的というとき、何よりつよい感情は世界の仲間入りという感情である。この感情が普遍的だということは、ラジオが一九四七年度のハイライトで水泳の古橋選手を紹介するとき、アナウンサーは古橋選手のレコードで日本もやっと国際的な一つの窓をあけられたように明るくなった、と語った。日本の国際感覚には、後進国らしくそして封建くさく、仲間入りさせて貰える、仲間入りするようになった、という要素が案外につよい。対等につき合うことは既定の事実で、それからさき、どうつき合うかが問題であるヨーロッパの国際性とはちがった気分が流れている。これを逆にして、アジアに向うと明治以来の日本は、女性さえも中国・朝鮮に対して侵略
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