代の夜明けである文芸復興《ルネッサンス》が語られるようになった。けれども、聰明な読者よ。あなたの手許にある歴史年表は何を示しているだろう。十四・五世紀、ルネッサンスの花がイタリーを中心としてヨーロッパに咲き乱れレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、シェイクスピアと人類の才能が開花したときの日本は、戦国時代だったことをはっきりと理解しなくてはならない。日本はもう鎖国していた。それから、三世紀に亙る徳川の封建時代。半分チョン髷の心理がのこっている明治。ひきつづききょうまでわたしたちの国際的な感覚は不運な歴史のつづきである。
 日本が地理的に大陸からはなれていて、人民の経済能力が低いことは、ヨーロッパの学生や勤人が休暇旅行に隣りの国の親戚や友人を訪問しあう手軽さを許さない。旅費の関係からだけでも、これまでの日本で外国生活を経験している人の種類は多く中流以上の階層だった。その事実は、きょうでもまだ日本の一般人の国際的な動きを制約している。そのために、今日外国を見て来るほんの少数の人は、何とはなし特別なもの知りのように思われ、それぞれの職域で一種の権威者のようになりがちである。しかもその職域
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