ついてはどんなに若い女性のロマンティックな英雄心を刺戟しただろう。日本の人民は細長い島の国の上で、全く世界から遮断され、すきなままに追い立てられた。超国家主義の合言葉の下に、世界といえば日本のほかにナチス・ドイツとファシスト・イタリーしか存在しないように。――ラジオの子供の時間が、ドイツとイタリーは日本の親類ですと放送していた、あの女の声、あの男の声をわたしは忘れることができない。
ポツダム宣言の受諾によって、日本の侵略戦争の本質が示され、民主主義の方向をとるといっても、日本の多数の人々が、呆然としているばかりだったのは無理なかった。海もてかこまれし島の住民は、自分たちの運命を破壊しているのがファシストであり、狩りたてられて心にもない惨虐を行い、母よ許し給え、神よ許し給えと手帳にかきのこして若者が死んで行った戦争が侵略戦争であるということさえしらされていなかった。いってみれば、そんなことを知るすべがなかった。国際社会の現実を語るすべての思想と言葉は禁止され、そういう人は治安維持法で投獄させられた。
日本の民主化がいわれはじめてから、人間性の尊重が見直され、それにつれてヨーロッパの近
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