組織され、人間の幸福を支えるに足る社会をつくり出してゆこうと努力している。
 世界のこういう現実を、わたしたちが経験した戦争の十数年間、最悪の数年間と思いくらべたとき、わたしたちの胸にどういう感想が湧くだろう。古い軍歌に「四面海もてかこまれし」とうたわれた日本は、東も西も大陸からきりはなれていて、弦をはったような狭い日本はファシズムと治安維持法ですき間もなくふさがれていた。大新聞の国際報道さえ制限され、外国の本の輸入は禁じられ、国際的な統計はもとより国内事情の実際を知る統計は禁止された。敵性の言葉という理由で中等学校の正課から、英語がとりのぞかれ、レコードは音盤とよばれ、イギリスやアメリカの音楽はレコードできいてもいけなかった。世界の声のきける短波のラジオは使用禁止され、ラジオは軍部、情報局のさしずどおり、一九四五年八月のあと、大部分が虚偽であったとわかった大本営発表を叫びつづけていた。母子の愛情、夫婦や愛人同士の愛や希望や計画などは、ほんとに口に出すことの許されない感情のように扱われた。政府は、文科系統の学生だけを前線に送った。理科系統は軍需生産に利用できるからのこした。女子の動員に
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