れている様子とは、おのずからちがって自分を意識していることを示している。
 第一日の公判廷は、十一名の被告が一人一人たってその一人一人が、取調べの過程で検事が云ったことを具体的にあげてその非合法的なやりかたの不当をはげしく訴え、全法廷が公訴取消を要求する声々でいっぱいになって「遂に起訴状朗読には至らず」閉廷したのであったが「法廷両側に貼られた『傍聴人心得』の必要をみとめないほど、この日の法廷は野次も旗も労働歌もない、ただ熱心にメモをとるばかりの傍聴席風景だった。」(一一・八、東京新聞)
 被告たちが、いっせいに公訴の不当を訴えた根拠というのは、どういうものだったろう。
 公判第一日の速記録によって被告たちの陳述をあとづけてみる。
 午前の人定尋問の時、立って「この公判は重大であるから公判の検事ならびに裁判長以下裁判官の名前をわからして頂きたい」と発言して、布施弁護士によってその要求を具体化した被告飯田七三(三二)、もと三鷹電車区検査係、同分会執行委員長は、午後の法廷でさらに発言を求めて次の様に述べた。「最初申しあげた通りこの事件がいわゆる普通の刑事事件と違うということをもっとも端的にあ
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