を自供した。それが九月十三日になって、神崎検事に対してこんどは自分一人ではないと共同正犯を主張した。そして相川検事にもこれを述べ、さらに十一月二日には自由法曹団の弁護人をことわり十一月四日の第一回公判となり」(一一・一八、読売新聞)十二名の被告のなかで、彼ひとりが、自由法曹団外の鍛冶、栗林、丁野の三弁護人を選任して出廷したのであった。偽証罪として起訴された石川、金の二人の被告を加えた十一名と、自由法曹団の弁護人たちが、七十歳の布施辰治を先頭として、はげしく検事の取調べの不当を非難した第一日の公判廷で、竹内被告の弁護人鍛冶だけが「個々の被告の人権を尊重し、被告個人の特殊性を無視して一色に塗りつぶしてはならぬ」と要望(五日、読売)したには、以上のいきさつがあった。学生服や開襟シャツに重ねた仕事着姿の被告たちにまじって、ただ一人きちんとネクタイをつけ上着のボタンをかけた背広服姿の竹内被告が、腹の下に両手をくみ合わせ、やや頭を左に傾けた下眼づかいに正座している当日の彼の写真は、全身の抑制された内向的な表情によっても、同じベンチに並んでいる他の被告たちの動的で、いくらか亢奮した反応が陽性にあらわ
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