、午前の人定尋問のとき、まず次のように発言した。「即刻この公訴をとり消して頂きたい。その点について申しあげたい。私は私を育ててくれた両親、かずかずの恩師、諸先生たちに正直であれと教えられてきた。そして私もそのように生きてきた。真実を愛し、正義を愛して生きてきました。ところが八月一日無実の罪によって逮捕され、八月二十八日起訴されたのであります。すなわち、真実を愛し正義を愛し、それの味方でありそうして保証者であり、これを助長しなければならない検察当局が真実を愛し正義を愛するものを起訴する。このような不当なものをわれわれは断じて容認できないのであります。」ついで午後の法廷で、わかわかしい学生服の彼は一時間にわたって検事の取調べに苦しめられた状態をのべた。「われわれは決して空虚な根拠をもって公判取消を要求するわけではない。」と、八月一日から十五日まで泉川検事と渡辺警部によって主として組合の「細胞会議について特に追求されたのであります。」そして逮捕の理由を追求する被告に対して「捜査官は容疑の点というものはタネだ。タネをあかすことはできない。」渡辺警部はしきりに若い清水の意気をくじくための刺戟を与
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