に目を落したまま、云った。
「もし友さんが来れるようなら、おっ母さんは、お前らが出てもこの商売ずっとつづけて見ようと思う。どうで? その気になって、儲けさえ焦らなんだら、やっては行けそうに思う」
三年ばかり前に源一が入営中働いていた友三という運転手が、最近トラックの徴発で体が空いた。もし今井で使って貰えればと、ハガキをよこしているのであった。
広治にしては母の話も突然のことである。
「そら友さんなら正直でええが……」
「兄さんが行ってから、おっ母さんの心もいろいろになったが、きょう日ではたった一つにきわまった。どうでも、結局はお前らの勢《せい》のいいように暮して行かにゃならんと思う。このおっ母さんがひっそり一人でくすぶっとると思えば、お前らの勢もわるかろ」
そしてお茂登は優しい息子に向って半分からかい気味に、
「どうで!」
と笑いかけたが、眼からは自分でも思いがけない熱い涙が溢れ落ちた。お茂登は上っぱりの上へしめているセルの前かけの端で涙をふいて、更にしっかりと両手で広治のいじっているタイヤの端を抑えてやりながら、熱心に、はっきりとした数字をあげて、自分の心づもりを話して行った。
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