と一緒にハーモニカも蓋のこわれた本箱へぶちこんで行った。広治がそれを見て思いつきから慰問袋へ入れてやったのであった。
 大きな壊し家の運搬があって広治は徹夜で働いた晩があった。十一月のかかりで、店屋でも背戸に干大根をかけ連ねる季節である。タイヤがあやしくなったと云って、一眠りしておきた広治が車庫で修繕をはじめていた。ひところは一本三十五円ぐらいだったタイヤも倍ほどに騰貴した。
「ひとりか? 作はどこで?」
「眠っとる」
 余りうまくもない口笛を吹きながら、広治は体の痛い風もなくジャッキを動している。お茂登は、背戸の柿の木の下へ何度も往復しながら薪を乾した。
「あす、山田の帰りには、忘れんこと炭積んで来ることで」
「ああ」
 薪を並べてしまうと、お茂登は車庫の三和土へ来て、広治のわきに蹲んだ。
「どれ、そこ持ってやろ」
「もちっとこっち……うん」
 暫く一緒に手伝っていたお茂登は、やがて、
「広ちゃん、お前、こないだの友さんのハガキどこにあるか知っとるか」
ときいた。
「状差しにあるだろう」
「なあ、広ちゃん」
 お茂登は蹲んだ足の上で体の重心をおき代えるように身じろぎして、凝っとタイヤ
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