その人の四年間
――婦人民主クラブの生い立ちと櫛田ふきさん――
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九五〇年三―四月〕
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一
一九四三年だったかそれともその翌年だったか、ある夏のことであった。ある晩わたしは、中野鷺宮の壺井栄さんの家の縁側ですずんでいた。そのころ、わたしにとって栄さんの家は生活の上になくてはならない休みどころであった。手拭の新しいので縫った小さい米袋に、ひとにぎりの米を入れ、なにかありあわせたおかずがあればそれも買物籠に入れて栄さんのところに出かけた。そして栄さんの家族にまじって賑やかな、それでいてしっとりした御飯をたべさせてもらい、大抵の時はそのまま腰がぬけて泊めてもらった。それはわたしの「里がえり」とか「やぶ入り」とかいう名がついていた。
その晩もやっぱりそういう「里がえり」の一日であったのだろうと思う。縁側で涼しい風にあたっている時、栄さんが、もしかしたらいまに櫛田さんがくるかもしれませんよといった。わたしはその人が誰だか知らなかったし
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