見たことは稀だとしても、今日の日本の青年たちの毎日のうちに、一度二度は必ず顔面を掠めて通る感じではないだろうか。
 若い女性たちの口許に、同じような表情が浮ぶ時も多く見かける。
 そして、感じを表現する能力のある人々は、今日、日本の若い娘が自尊心と気品とを失ってしまっていることを非難しているのである。
 それにつけても、戦争犯罪人というものの行為が及ぼした害悪の大さと深さとにおどろかれる。それらの人々は、経済的に、政治的に祖国を破綻させたとともに、民族の道義をも難破させた。戦争を強行するためには、すべての人民が、理不尽な強権に屈従しなければ不便であった。その目的のために、考え、判断し、発言し、それに準じて行動する能力を奪った。外的な一寸した圧力に、すぐ屈従するように仕つけた。無責任に変転される境遇に、批判なく順応するように何年間か強いて来たのであった。日本人が今日、当然もつべき一個人としての品位と威厳とを身につけていないことを外国に向って愧《は》じるならば、それは、現代日本の多数の人々を、明治以来真に人格的尊厳というものが、どういうものであるかをさえ知らさないように導いて来た体制を、今
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング