日本で、因習と封建的な体面をすてて、どんなに雄々しくたたかったかということを知っているひとは、きょうの若い女性のなかにはすくないかもしれない。香織さんは、※[#「火へん+華」、第3水準1−87−62]子さんにとって偶然の子ではなかった。一人の女が愛の力にはげまされて伝統の垣をうちやぶり、力のかぎりたたかってその人の妻となり、やがてその子の母となったという意味で、香織さんは全く母性そのものによって意欲されて生まれた愛の子であった。※[#「火へん+華」、第3水準1−87−62]子さんがその香織さんに戦死された。戦争で子を失ったすべての母たちの嘆きが、※[#「火へん+華」、第3水準1−87−62]子さんの苦悩に表徴されているようにわたしには感じられた。そして、妻たちの悲しみが。愛が破壊されたということで、※[#「火へん+華」、第3水準1−87−62]子さんは最もはげしく戦争の惨禍をうけた婦人の一人である。
香織さんの霊が不滅であると信じずにいられない思い。命日には同じ思いの人々が集って涙をしぼる物語に心を休めているにしろ、その嘆きの底に「あれは一体、誰ゆえに」という疑いが絶えることなく閃い
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