では、日本の婦人たちが日々の辛苦をしのいでいる手腕は、しようがないどころのさわぎではない。おどろくべき根づよさをもっている。それだのに、問題が直接家庭の内からはみ出した大きいことと思われる場合、特に政府のやることとなると、日本の婦人のこころもちのうちにある、しようがない、は最大限にこれまでの習慣の魔力をあらわして来る。何といっても日本は戦争にまけた国なのだから、しようがないという気持には、軍国主義で養われた服従の感情がそのまま裏がえされたあきらめとしてにじみ出す。やけになった女の心には、しようがないわよ、どうせなるようにしかならないんだから! と、他力本願がさかだちしたタンカもきられている。
 講和の問題がおこって来ているにつれ、役人のある種の人たちは、さかんに、日本はまけた国なのだから講和問題について自分から発言する権利はないのだという考えかたを、みんなの頭にしみこまそうとしている。したがって強い国が日本に対して要求するどんな条件もきくしかしようがないのだという気持をかきたてようとしている。
 湯川秀樹博士がノーベル賞を受けた日、「わたしは原子爆弾をつくれないし、そういう興味をもって
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