った。このことは毎日文化賞そのものの社会的文化的意義の動揺を語っている。文化賞の対象の選定にあたって、「老舗」ののれんが物をいう反民主性に屈伏することであるのに、おどろかずにはいられまいと思う。
「同人雑誌」でさえあればそれが新しい文学の温床なのではなくて、旧来の文壇気質やジャーナリズムの現代文学の空虚さにあきたりない何かのつよい生活的文学的欲求があり、その表現として商品性に抵抗する同人雑誌があらわれてこそ、同人雑誌としての意義がある。昭和のはじめに簇出した『文芸時代』『近代生活』『文芸都市』その他は、資本主義の社会の生活と文学の中で個人的な展開を試みなければならなかった人々の同人雑誌であった。したがって、それらの人々の文学上の流派が――新感覚派にしろ、新心理主義にしろ、当時に何かアッピールするものがあったために、商業ジャーナリズムの上に流通するようになるとともに、同人雑誌の中に自然の生存競争が生じ、数名の「老舗」と、歴史の波間にかくされる他の数名とを生んで来た。火野葦平が「文壇登龍門」とし、「道場」という同人雑誌も、そこから現在の文壇有名人の大部分が出て来ているというならば、その底に
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