、まるでちがう「我国の場合」を躊躇なく例としてひいて来ていることは注目される。たしかに「我国の場合で考え[#「我国の場合で考え」に傍点]」ると、吉川英治が一位をしめるかもしれない[#「かもしれない」に傍点]。わたしたちは、一九四九年度の毎日文化賞のための世論調査の結果として、第一位が長崎の永井隆「この子をのこして」であり、第何位かに吉川英治を見出したのであったから。しかし、この一つの事実は、その事実が結論されて来るまでの条件として他のもう一つの予備的事実をふくんでいる。それは一九四九年度の調査のために、毎日新聞は一九四七年度の調査にあらわれた特に読書率の低い地方を対象としたということである。大都市よりも農村に。組織労働者の多いところより、全体として自覚ある労働者のすくない地方、政治的覚醒の著しいと見られていない地方を対象とした。
毎日新聞のこの方法は、何回かの調査のうちに或る均衡を見出そうとするある試みであったかもしれないが、文化賞のための具体的根拠とはなり得なかった。文学の委員会は、それらの調査のどこにもあらわれていない「中島敦全集」とその出版社に文化賞を与えることに決定したのであ
前へ
次へ
全16ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング