れる。けれども、この刻々に変ってゆく一般の情勢のなかで、その変化にひきずられずに変らぬ愛が満たされているためには、全く現実的な周囲の出来事への判断とその理由への明察と、人間生活の真の成長への評価を見失わない堅忍や行動が、求められていると思う。今日の世の中の一方には贅沢《ぜいたく》と奢侈《しゃし》と栄達とがある。もう一方の現実のありようとしては、より多くの人々が益々困難の原因や不便についての深くひろい社会的な真の動機を理解してそれに人間らしく処してゆく必要におかれており、それは一つの国としての事情からもっと広い国々での生活のありようとなっている。
 私たちの耳目が満州・支那に向けられ、又ポーランドに向けられている今日の生活感情は、破壊と建設と葛藤との世界的な規模のなかで、沈着にその落着かなさに当面し、自分たちの結婚をもただ数の上での一単位としてばかり見ず、明日に向ってよりましな社会を育ててゆくべき人間として、質の上からの一単位として自覚し、生活してゆくことの意義を、痛感しはじめていると思う。こういう時代での生きかたとしては、或る場合、騒がしい立身出世の波をも静に自分たちの横を行きすぎさせ
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