眼のなかにも読みとられる反映となっていたと思う。多くの若い婦人を読者とする雑誌の小説などは、敏感にそれに触れた。愛をもってその人の幸福をねがっている男が、自分に起った出征ということから予想される様々の場合を深く考えて、対手の女には遂に心を語らずに出発して行くこととか、婚約を一先ず解いて、女の運命を混乱から守っておいてやる、というような行動が、勇敢な男のヒロイックな感情として描かれていたのを覚えている。その場合、女のひとの感情は、何となし型にはまって、昔ながらの受け身な風で、涙を抑えながら出発を見送って旗を振る、というようなおさめかたであったように思う。
男の側から気持をそういう方向にもってゆく場合が目立ってとらえられていたというのも、云って見れば、暗黙のうちに女のひとの心の中に生じていた結婚に対する遅疑や逡巡が照りかえしたものとしての現れであると云えるところもあろう。時局に際しての女の身の上相談として、実際に、どうしたらよかろうという問いがそういう立場にある女のひとから出ていたのだから。
一応そういう躊躇のもたれるのも無理ないところがある。日本の習慣の中で、結婚は決して若い男と女と
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