良人を心持の中心において何とか方法が立てられた。待つ、ということのなかに、日本の女の忍耐づよい特徴が活《いか》されもし、期待されもしているのである。
 これから結婚しようとしていた若い人たち、ある人と結婚してもいいというように互の心持が動いている過程にあった人々は、もっと複雑な陰翳を蒙った。いつ訣れなければならなくなるか分らないから、では一日も早く二人の生活を一緒にしよう。そういう風に行く場合も多かったろうと思う。その遽《あわただ》しさ、幸福を二人の手の間からとり落すまいと、互に扶け合って時を惜しむ営みの姿のなかには、涙ぐまれる眺めがある。けれどもそこには、甲斐甲斐しさもあるし、運命をさけてまわらないでそのなかから最上のものをとり、最上と思われる生きかたの道をつけて、生き越して行こうとする若い人々の努力が汲みとられる。
 最も一般的に感じられたのは、訣れを前に見て、その最悪の場合というものを考えて、結婚をのばし、躊躇する気分ではなかったろうか。千人針というようなものが目新しい街頭風景であった頃は、確かにその気分が親たちの分別から流れ出して、若い男の思慮へ入り、そして、若い女のひとたちの
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