まっている面が薄暗い中で鈍く光った。――
大船へ二十何町かあると同じくらい海岸からも引込んでいるから、私どもの生活は、八月の海辺風物――碧い海、やける砂、その上に拡げられた大きな縞帆のような日除け傘、濃い影を落して群れる派手なベイジング・スウトの人々などという色彩の濃い雰囲気からは全く遠い。それどころか、明月谷の住人は、或る点現代というものからさえ幾分――丁度二十何町ばかりも引込んでいるようでさえある。ざっといって見ると、明月谷に他から移り住んだ元祖である元記者の某氏、病弱な彫刻家である某氏、若いうちから独身で、囲碁の師匠をし、釈宗演の弟子のようなものであった某女史、決して魚を食わない土方の親方某、通称家鴨小屋の主人某、等々が、宇野浩二氏の筆をもってすれば、躍如として各の真面目を発揮させられるだろうような性格で狭い谷間に暮している。その中に、ふと混り込んだ我々二人の女は――さて何と描かるべきだろう。……
最初から、この家に伴う強い魅力の一つであった釣堀で、フダーヤはよく釣をする。五十銭で買ってもらった釣竿を持ち、小さいなつめ形の顔の上に途方もなく大きい海水帽をかぶり――その鍔をフワ
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