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宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年十一月〕
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 四五日前のある夜十時頃、机に向っていると外でうちの名を呼ぶ男の声がした。速達だろうと思った。郵便受箱へ入れておいて下さいというつもりで高窓をあけたら、タオル寝間着の若い男のひとが立っていて、妙にひそめた声と左右に目を配った挙動とで、「一寸ここまで来て下さい」と云う。「どなたなんでしょう。」「一寸ここまで来て下さればわかりますから。」
 それはつい一つ先の角の家のひとで、その家の台所と風呂場をうかがっていた怪しい男をそこの露地へ追いこんだから、交番へ行ってくれ、というのであった。怪しい男はつかまった。これ迄は何年にもこの界隈にそういうことはなかったのだ。私はこわいと思った。
 友達のうちで、二階から二階へわたって物とりに入られていろんなものをとられた。そんなことは、そこに住んで以来はもとより附近にもなかったことだそうだ。私たちは、こわいわねえ、と云いあった。
 そしたら前後して、本郷の方の通りで、何か妙なことが起
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