って、おまわりさんは、夜はどの道を歩くな、と住民たち、特に女に注意してくれたそうだ。
 人気がいいとか、人気がよくないとかいうことが昔から或る町や界隈について云われる。少しかたい言葉であらわされれば人心の微妙な動きが、人気のよしあしとなって云われるのであろう。その人気のうつりかたは実に早くて生物的であって又現実的であって、手の指の間にとらえ難いものだが、この頃の人気は、どこかこわいところがある。
 そんな泥棒のふえて来たことだけでなく、ある夫婦が歩いていたら警官に呼びとめられて、妻にしろそんな若い女と歩いているのはいけないと叱られたということをきいた。地方では青年団のひとたちがそういうようなことに口をはさんでいるというような話もつたえ聞いた。そんなことも、やっぱり人気の荒さと感じられて、こわい。男女づれのそのような見かたで女というものがどう扱われているかという心理に迄ふれて行ってみると、そういう男の女を見る目のなかに女にとって、こわい光がある。女がひとり歩きしにくいようなことになったら、益々社会的に働く場面のひろがっている女の不安、その家庭の不安、世間の不安は少ないものでなくなるだろう
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