のときどうすることがよかったか。結果論のようではあるが私は戦闘機なしでも出すべきであったと思う」と、さながら戦況の不利を目の前に見ているように「何という無念!」という感情で語りすすめている。読者は、専門家の生々した話しぶりにひきいれられ、スリルを刺戟され、われ知らず筆者の感情の流れにひきいれられている。そのようなミッドウェイの敗北をひきおこした戦争の本質について、元参謀長は歴史的な考察と反省を行おうとしていないのである。ただ現象についてだけ語っている。
 これは、果して歴史の「真実を語る」方法だろうか。根本の原因にふれないで、そこに生じた現象だけを、おのずからほとばしる職業軍人の感情で語ることに、うそがないというだけで、こんにちファシズムとたたかって平和を確保しなければならないわたしたち日本の人民にとって、誠実な態度であるといえるであろうか。
 敗けさえしなかったら。――日本が敗けたんだもの仕方がない。そういう感情は戦争をまるで災難のようにうけとるほど、伝統的な軍国主義のもとに育てられた日本の女性の心に、きょうもまだぬけない根をのこしていはしないだろうか。何もかも敗戦がわるいんですよ。
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