偏見をまたくりかえすことはしまいと、決意をもちはじめたとき、記録文学、実録文学の調子に一つの変化があらわれてきた。ルポルタージュであるにはちがいないが、したがってそれはあったことをあったとおりに書いているといえるわけだが、例えば「軍艦大和」という作品が問題になったように、題材に向う態度が、戦争当時の好戦的な亢奮した雰囲気をそのままとり戻しているようなものがあらわれた。二・二六事件の秘史というものが、当時の内部関係者であったファシスト軍人によって主観的に合理化してかかれたものが公表されるし、日本海軍潰滅前後の物語も、当時の連合艦隊参謀長というような人々によって執筆されはじめた。
 これらの記録には、どれにも共通な一つの本質がある。それは元連合艦隊参謀長草鹿龍之介氏「運命の海戦」(文芸春秋、四九・一〇に発表)をよんでもわかるとおり、「ミッドウェイ洋上、五分間の手遅れが太平洋全海戦の運命を決した※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と五分早かったらという調子で、海戦の状況がこまかく専門的に記されていることである。元海軍中将であるこの筆者は、その達筆な戦記のなかにきわめて効果的に自然に「しからばこ
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