ととのった影がさして居た。
 親達は、お龍を自分の娘だと思って見るのにはあんまりすごすぎた。なるたけ手をふれない様に、なるたけ光りものをよけいにひからさない様にと、火薬を抱えた様な気持で居た。逃げ様としてもにげられない因果だと二人は暗い気持になって一家の運命と云う言葉におびえて居た。この家をもう幾十年かの間つづかせると云う事はいくらのぞんでも出来ない事だと親達はあきらめた。力ない目で凄く凄くとなって行く娘をふるえながら見て居るよりほかにはなかった。十七の春、すぐ近所の小ぢんまりとした家に御気に入りの女中と地獄の絵と小説と着物と世帯道具をもって特別に作られた女はうつった。世なれた恥しげのうせた様子で銀杏返しにゆるく結って瀧縞御召に衿をかけたのを着て白博多をしめた様子は、その年に見る人はなく、その小さな国の女王としても又幾十人の子分をあごで動かす男達の姐御としても似合わしいものだった。
 壁の地獄の絵の中の火はもえて脱衣婆は白髪をさかだてて居る、不思議な部屋で歯のまっしろな唇の真赤な女は自分の力を信じてうす笑いをして居る事がよくあった。
 女の机の上にはいつでも短刀が置いてあった。虹をはく
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