んで力がなくなって行った。かるいため息をつきながらフッと思い出してうす笑いをする男の様子を不思議に思わないものはなかった。
 三月ほどあとにいきなりこの店から男は追われる事になった。前の晩一晩倉前のつめたい石の上で泣き明した青白い面やせた力ない男を前に置いてお龍は父親に代ってと云って最後の命令をあたえた。男は涙をぽろりと一つひざにこぼしてうるんだ目に女を見あげて二三歩ヨロヨロと女に近づいたまんま一言も云わず何のそぶりもなくって再びこの店には姿を見せない様に出て行った。死に行く様な男の様子を見て女は美くしい歯の間から「フフフフ」と云う笑をもらした。家中この事をきき又見たものは主人にも可愛がられて居たのにと、気になる謎をときにかかったがどうしてもとく事の出来ない事だった。ただお龍と云う名をある力をもった特別の人の様に思った、そしてその美くしい姿が見えると人達はサッとはいた様にかたまり合ってまぼしい様な姿を眼尻の角からのぞき上げた。
 そんなウジウジした様子を見るにつけて御龍は自分の体の中に心の中に住んで居る光り物を可愛がった。
 まだ十六のかおにはもう男と云うものを知りぬいた女の様なさめた
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