息をついたりして居るのを見ては、それが面白さに分るものをわざと間違えてかんしゃくを起したふりをして弱い男のオドオドしてただなさけなそうにうつむく様子を見ては満足のうす笑をして自分の部屋に入るのが常だった。
 手あたり次第に小説をあさってよんで居たお龍は末喜を書いた小本を見つけた。さし絵にはまばゆいほど宝石をちりばめた冠をかぶって、しなやかな体を楼の欄にもたせてまっかな血を流して生と死との間にもがき苦しんで居る男をつめたく笑って見て居るところが書かれてあった。さし絵のものすごさにつりこまれてお龍は熱心にそれによみふけった。一枚一枚と紙をまくって行くお龍の手はかすかにふるえて唇は火の様に赤くなった。そしてそのまっしろなかおは白蝋の様になった。一字一字とたどって居るうちに自分の気持とこの中にみちて居る気持とあんまりぴったり合うのにおどろいた心を底の方からうずく様な何とも云われない気持が雲の様に湧き上って来た、自分の心を自分で考える様にお龍はジーッとうつむいて居た。何事かをさとった様に、教えられた様に「私は特別に作られた女なんだ、死ぬまで男の血をすすって美くしくておられる力をもって居る」凄く光
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