えばじきにしぼんで散ってしまう花――じきにとしよりになる様なお花なんて名がいいんでしょうか。でも、わたしゃお龍がすきなんだもの。龍があの黒雲にのって口をかっとひらいて火をふく所なんかはたまらなくいいけどもマアただの蛇がまっさおにうろこを光らして口から赤い舌をペロリペロリと出す事なんかもあたしゃだいすきさ、いいネエ……」
そのすごく光る目をあこがれる様に見はってお龍は斯う云って母親が顔色を青くしたのをまっくろな目のすみから見て居た。細工ものの箱に役者の絵はがきに講談本のあるはずの室には、壁一っぱいに地獄の絵がはりつけてあり畳の上には古い虫ばんだ黄表紙だの美くしい新□[#「□」に「(一字不明)」の注記]ものが散らばってまっかにぬった箱の中には勝れた羽色をもった蝶が針にさされて入って居た。
そんな事も母親に何とはなしに涙ぐませるには十分な事だった。高等を卒ったっきりであとは店のものに気ままに教わって居たけれ共教える任にあたった若いものは娘のつめたい美くしさに自分の気の狂うのをおそれてなるたけはさけて居た。お龍は男が鉛筆をにぎって居る自分の横がおを見つめてポーッとかおを赤くしたり小さなため
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