られなかったんだもの。私はお前の美くしいと云う事をあんまり見すぎてしまった、それで又私はあんまりお前からくらべると正直だったもの」
やせてめっきり衰えたまだ若い男は毎日毎日来ては女の手につかまって居た。
「私はもうじき近い内に死ぬと云う事を知って居る」
と云った。女はどんな時でもひややかに笑いながら男には手先だけほかゆるさないでつっついたり、小突いたりして居た。お龍はその時お女郎ぐもの、大きなのをかって居た。いつでも自分の指の間に巣を作らせたりくびのまわりを這わせたりして居た。その時もお龍は自分のひざの上を歩るかせて自分ではその来手来手をふさいではからかって居た。こっちに行こうとすると手にぶつかり後にもどろうとするとさえぎられるのでくもはヒラリととんで男の首に這った。それからスルスルと行くさきざきにむずかゆい感じを起させながら胸を這って袖口から出た。それを女がつかまえて自分のひざにのせた。
くもに這われて居る間男は又とないだろうと思われるほどの快い気持になって居た。
だまって目をつぶってクモに這われて居る男を見て女は笛の様な音をたてて笑った。
その日男はたまらないほどあまったる
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