い気持になって家に帰った。そしてたたみの上にコロリと横になってニッコリといかにも嬉しそうに笑って眠に入った。
翌朝になっても男は笑ったまんまねて居たけれ共もうあったか味もない口もきかない小ばなの妙にそげたひやっこい肉のかたまりになって居た。「あの人が一番さきに私を美くしくするこやしになったんだ!」女はこう云っただけだった。
それからあとも男は幾人も幾人も格子を開けては特別に作られた女のそばによって居た。
男達の心を取り血をしぼって女は若やかにますますその肌は白く髪は黒く目はかがやいて来た。特別に作られた女を美くしくな[#「な」に「(ママ)」の注記]るために純な心を持った男は笑いながら幾人も幾人も死んで行った。男が一人死ぬ毎に女の美は一段進んで男の命と云う貴いものでつくりあげられた美くしさは銀の光りで月をつなぎ合わせた様なかがやかしさと気のボーッとなるほどのかぐわしい香りをもって居た。
美くしくなりながら女は年をとって行った。
長い間数知れないほどの男を気ままにもちあつかって居たけれども女はまだ処女であった、処女で居られる力を特別に作られた女はもって居た。
うす暗いローソクの
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