てたべるだろうワ。……ねえ」
 すんだ声で女は云った。男は芝居の科白を云って居るとは思わなかった。
「何云ってるんだろう……気味の悪い人だ、そんなにおどかさずにおくれ」
「おどかしてあげる、――どこまでもあんたが弱ってへとへとになって死んでしまうまで」
「そんな美くしいかおをしてそんなこわらしい事を云うのは御よし……」
「およしだって、貴《あ》んたは私になんでも御よしと云う事は出来ないと思ってらっしゃい。エエそうだ私は世の中の男をおどしてビックリさせて頓死させるために生れて来たんですもの――」
「お前、恐ろしくはないんかい。マア、そんな事を云ってホンとうに娘らしくない」
「恐ろしい、世の中に恐ろしい事なんかはありゃあしませんわ」
「私は今までにないほどの男にかける呪を作ろうと思ってるんですもの、わら人形に針をうつ様なやにっこいんじゃあないのを……呪――好い響をもった言葉でいい形《かっ》こうの字だ事」
 男はおびえた眼色をしてこの話をきき女は勝利者の様な眼ざしをして話した。
「いやな事云うのはもうやめにしてどっかへ行こう、サ、私は後がひやっこい様な気がする――」
「そうでしょう、そのはず
前へ 次へ
全28ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング