とささやかな葉ずれの絶えずする玉蜀黍がズーッと一列に並んで、薯や何かの低い地を被うて居る作物の上には銀粉を散らした様な細まやかな閃きが躍って居る上をフンワリとかぶせた様なおぼろげな靄が気付かない程に掛って居た。
 ゆるい勾配の畑をかなり行き抜けると小高くなった往還を越えた向うがもう山田の家で、高い杉並木が道一杯に真黒に重い陰を作って居る間から、チラチラと黄色い灯がのぞいて何かゴトゴトと云って居る人声が聞えて来た。
 高い中でも飛び抜けて太くて大きい二本杉が門の様になって居る所からだらだら坂を下りて右に折れるともう主屋で、何となしモヤモヤした空気と物の臭いが四辺に立ち迷って居た。
 今まで心の澄み透る様な中に居たのが急に蒸しっぽい芥々《ごみごみ》した所に出て、気味の悪い息を胸一杯に吸って仕舞ったので、何かに酔いでもした様な気持になった※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、眉をしかめて生唾を飲みながら暗い中に立ち止まって仕舞った。
 傍の三尺の入口からズーッと奥に続いて居る土間の陰気にしめっぽい臭いや乾いた穀物と青菜の入りまじった香りがすきまなくあたりをこめて、うす暗い
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